アルプヤルナ aohr Ver.

 校舎から出ると、今年最初の雪がちらちらと舞っていた。
「ゾロ見ろよ、雪だ!」
「へー、今年はいつもより早いな」
「うー寒ィ。なあなあ、あったかいもん飲んでから帰ろうぜ」
 駐輪場に向かう途中にある自販機の前で、サンジはうーんと唸った。
「カフェオレもいいけど、ホットレモンも捨て難い……でもやっぱココアにする!」
「よくそんな甘いモン飲めるよな」
 ガコンと音を立てて落ちてきたホットココアの缶を両手で握って暖をとるサンジを呆れたように眺め、ゾロはコーンスープのボタンを押す。出てきた缶のプルタブを小気味のよい音をたてて開けると一気に飲み干した。
「熱くねえの?」
 猫舌ゆえに温かいというには熱すぎる甘いココアをちびちびと飲みながら、サンジは大きくて目立つゾロのむき出しの喉仏が上下するのを盗み見た。
「こんぐらいなんともねえ。おまえが猫舌すぎんだよ」
「うるせー、この犬舌め!」
「猫舌の反対って犬舌なのか?」
「さあ。でも多分そうだろ」
「嘘くせー」
 くだらない会話でゲラゲラ笑い合っているうちに程よい温かさになったココアを今度は一気に飲み干すと、サンジは空き缶をゴミ箱に放った。きれいな放物線を描いたそれは、ゴミ箱へと吸い込まれていく。
「ナイスシュー、おれ」
「アホか。さ、早く帰ろうぜ」
 隣でゾロがコーンスープの空き缶を放る。歩き出した二人の後ろで、ゾロの放った空き缶は同じくきれいな放物線を描いて見事ゴミ箱にダイブした。
 
 
 
「寒すぎる! もっと早く漕げ、いややっぱあんまり早く漕ぐな!」
 ゾロの自転車の後ろに乗ったサンジがギャーギャーと喚く。
「うるせーな、あんまり騒ぐと放り出すぞ」
「だってさみーんだもん」
「あのなあ、真正面から風を受けるおれの方が寒いんだよ。しかもおまえ、おれのポケットに手突っ込みやがって」
 そう、サンジはゾロの学ランの左右のポケットにそれぞれ両手を突っ込んでゾロにしがみついていた。
「いいじゃん。減るもんじゃねーし」
 そう言ってサンジはポケットの中の手をワキワキと動かしてゾロをくすぐった。
「ばっか、あぶね……っ!」
 バランスを崩したゾロがふらついたところで、さらに突風に煽られた。危うく転倒しかけた自転車をぎりぎりのところで立て直して止めると、ゾロは後ろに座るサンジを思いきり睨みつけた。
「おまえも怪我すんだろうが」
「……悪かったって。ごめん」
 さすがにシュンとして殊勝な態度で謝るサンジの語尾を、再び吹き付けた突風が攫う。
 その風の冷たさにゾロの首がわずかにすくめられたのを、俯きながらもサンジは見逃さなかった。自分の首に巻いていたマフラーを外すと、ゾロと自分の首にぐるぐると素早く巻きつける。少し長めのマフラーは、二人の首を温めるには十分だった。
「はあ? 何やってんだよ」
「お詫びのしるし! 寒いんだろ、黙って巻かれとけ」
 ゾロは口をへの字に曲げて不服そうにしていたが、やがて大きくため息を一つつくと前を向いて再び自転車を漕ぎ出した。ぐんぐん上がるスピードに、耳元でびゅうびゅうと風の音が鳴る。
 
(……好きだ、ゾロ)
 
 こんなに近くにいるのに、言いたくても言えない言葉。これまでにいったい何度飲み込んできただろう。
 風の音に紛れ込ませようとしたその言葉をサンジは今回もやっぱり飲み込むと、代わりにゾロの背中に顔をうずめ、腰に回した手にぎゅっと力を込めた。

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